正しく知ろう!新技術の「ゲノム編集食品」/香取美江
皆さんは「ゲノム編集」という言葉を聞いたことがありますか?2021年5月に、ゲノム編集技術によって、通常のトマトよりも5~6倍のGABAを含有した「高GABAトマト」の苗が販売され、メディアでも大きく取り上げされました。
ゲノム編技術はどのような技術なのか、他の植物の品種改良技術とどう違うのか、インターネットで検索すると説明サイトがたくさん出てきます。見慣れない単語や専門用語で読むことをためらってしまう方も多いのではないかと思います。
できるだけ簡単に基本的な内容を下記にまとめました。
上記の品種改良技術は、自然修復が成功するために膨大な時間とコストがかかります。ゲノム編集はそれらを削減できる利点があり、食料生産の向上や気候変動への対策に有効な技術です。一方で、栽培しやすい植物、機能性が高い植物の生産量が増えていくことにより青果市場への影響は少なからずあるということも考えられます。
2021年9月 8日
今回は、植物のゲノム編集技術にスポットをあて、遺伝子組み換え技術や従来の品種改良技術との違いなどをお伝えいたします。
ゲノム編集技術とは?
ゲノム編技術はどのような技術なのか、他の植物の品種改良技術とどう違うのか、インターネットで検索すると説明サイトがたくさん出てきます。見慣れない単語や専門用語で読むことをためらってしまう方も多いのではないかと思います。
できるだけ簡単に基本的な内容を下記にまとめました。
● DNAとゲノムを知ろう
ゲノムとは、生物が持つ遺伝子情報全体をいいます。DNAはその本体を意味し、塩基をもつヌクレオチドという化学物質がつながって二重らせん状を形成しています。この塩基の並び方(塩基配列)や数が、生物の特徴となります。
●ゲノム編集技術の定義と特徴
「ゲノム編集技術とは特定の機能を付与することを目的として、染色体上の特定の塩基配列を認識する酵素を用いてその塩基配列上の特定の部位を改変する技術」として厚生労働省では定義されています。
植物の場合、「植物を成長しやすく、または植物の特定の機能をアップするために対象となる遺伝子を切り貼りして研究者が狙った突然変異を起こさせることを目的とした技術」をいいます。特定の塩基配列を狙って変異を起こすということが、ゲノム編集技術の大きなポイントとなります。
●植物の遺伝子組換えは今までの品種改良と違う?
遺伝子組換えは、本来持っていない性質のDNAを外から入れこむ技術のことをいいます。
例えば、虫が嫌いなタンパク質を入れ虫に食べられない植物を作る、といったことです。DNAのどの場所に入れ込むかは特定することができません。
例えば、虫が嫌いなタンパク質を入れ虫に食べられない植物を作る、といったことです。DNAのどの場所に入れ込むかは特定することができません。
従来の品種改良は、遺伝子の突然変異を利用し、味の良い野菜や栽培しやすい植物を作り出します。
例えば、味の良いトマトの花粉をつけて交配させ糖度が高いトマトを作ること、放射線を浴びさせ突然変異を起こし病気に強い植物を作り出すことです。
例えば、味の良いトマトの花粉をつけて交配させ糖度が高いトマトを作ること、放射線を浴びさせ突然変異を起こし病気に強い植物を作り出すことです。
ゲノム編集食品への期待と課題
上記の品種改良技術は、自然修復が成功するために膨大な時間とコストがかかります。ゲノム編集はそれらを削減できる利点があり、食料生産の向上や気候変動への対策に有効な技術です。一方で、栽培しやすい植物、機能性が高い植物の生産量が増えていくことにより青果市場への影響は少なからずあるということも考えられます。
流通や消費の面では、まだまだ課題も多くあります。具体的には、安全性の長期的な検証ができていないことや、現時点で、食品への表示義務がなく購入時に選ぶことができない点です。
食品事業者が「ゲノム編集技術応用食品ではない」と表示することは可能ですが、ゲノム編集技術による変異と従来の品種改良技術による変異とを判別する検査法の確立が困難であること、流通過程での分別管理方法が確立していないため、表示に必要な情報を十分に得ることが難しいということが状況です。
食品事業者が「ゲノム編集技術応用食品ではない」と表示することは可能ですが、ゲノム編集技術による変異と従来の品種改良技術による変異とを判別する検査法の確立が困難であること、流通過程での分別管理方法が確立していないため、表示に必要な情報を十分に得ることが難しいということが状況です。
ゲノム編集技術はまだ新しい技術です。これからも新しい研究結果や制度が発表されていくでしょう。アンテナを張り、信頼できる情報をキャッチして、自分なりの考え方を持っていきたいですね。
参考文献
- 農業・食品産業技術会議総合研究機構(農林水産省農林水産技術会議事務局研究企画課イネベーション戦略室監修)「ゲノム編集〜新しい種子技術〜」株式会社DRAGON AGENCY (2021年)
- 松永和紀「ゲノム編集食品が変える色の未来」株式会社ウェッジ(2020年)
- 「ゲノム編集技術応用食品に係るQ&A」,消費者庁,(閲覧日2021年8月31日)
- 「食品表示基準Q&A」,消費者庁,(閲覧日2021年8月31日)
- 農林水産省技術会議,「ゲノム編集」,(閲覧日:2021年8月)