現役ケアマネ管理栄養士が教える「嗅覚の低下」~においを感じない影響~/高宮朋美
日常生活で「におい」「香り」を感じても、においを感じる「嗅覚」を意識することは少ないと思います。
2024年7月17日
嗅覚は10代でピークとなり、以降徐々に低下し、男性では60代、女性では70代になると顕著に低下します。目の見えずらさ、耳の聴こえずらさは自覚しやすいですが、においを感じない嗅覚の低下は、本人、周りの方ともに気付きにくいことが特徴です。
嗅覚低下による食事に関する3つの影響
●おいしさを感じない
食べ物の香り、風味を感じることができずに「おいしくない」と認識していることがあります。鼻が詰まっているときの食事が味気なく感じるのは、においの情報が得られないためです。味覚は維持し嗅覚のみが低下して味を感じないこともあるほど、味わいに影響しています。
おいしさを感じないことで、食欲低下による食事量減少や、味の濃いものを好むようになり塩分や糖分の摂取量増加につながり、健康への悪影響が生じます。
●食べ物が傷んでいることがわからない
食べ物の腐敗臭がわからず、傷んだ食べ物を食べてしまい食中毒を起こしかねません。
食べ物を室内に置いたままである、冷蔵庫を過信しすぎてしまう等、身近に食べ物が傷む要因は存在します。近年の夏の異常な高温多湿では、ますます危険です。目視や触感で判断できればよいですが、高齢者は「もったいない」という思考もあり、口にしてしまうリスクは大きいのです。
●ガスや煙のにおいがわからない
ガス漏れのにおいに気づかず、場合によっては火災や生命に係わる事態を招く可能性があります。
忘れっぽくなると、ガスコンロを付けっぱなしにして鍋を焦がすことが増えます。最近のガス器具は、安全装置により自動消火されるようになっていますが、従来の機器を使い続けている場合は大変危険です。また、付けっ放しを知らせるアラーム音は、高齢者には聞き取ることが難しく、気付かないままになることも多いのです。
健康への影響や危険回避のための3つの対策
●におい、香りを楽しむ工夫をする
食べる前に、食事の香りを楽しむことを習慣づけましょう。食べ物を口に入れる前、入れたときに一瞬香りを嗅いでみると、味わいが広がります。また食事に香味野菜や柑橘類、香辛料を活用し香りにメリハリをつけましょう。花の香りを嗅ぐ、お香、アロマテラピー等も有効です。
生活の中で嗅覚を意識することが、においを嗅ぐ、嗅ぎ分けるトレーニングになります。
●食べ物の管理方法を見直す
食材の賞味期限、消費期限を守る、調理したものを室温放置しない、作るのは食べきれる量にする、買いすぎない、怪しいと思ったら処分する、「もったいない」より健康優先を理解する等、できることから実行しましょう。
また、飲み物をこまめに摂るよう手元に置くことを推奨していますが、腐敗しやすいジュースや濃厚流動食、栄養剤の飲みかけの長時間室内放置をよく見かけます。飲み切れる量の提供、開封しない状態で置くなどの配慮が必要です。
●安全装置を設置する
ガスコンロは、できれば安全装置のある器具への交換が望ましいです。使い方が理解できるならば、思い切ってIHコンロへの変更も検討しましょう。また、ガス警報器や煙探知機を設置し、本人だけでなく周囲に気づいてもらうことも重要です。
生活の中で「香り」「におい」を意識し嗅覚を刺激することが、将来の健康維持、危険察知能力の維持につながります。まずは毎日の食事で、味わいの一部である香りを存分に楽しみ、嗅覚低下を予防しましょう。
執筆・監修 管理栄養士:高宮朋美
執筆・監修 管理栄養士:高宮朋美
参考文献
- 「フレイル」「サルコペニア」「嗅覚」の予防につながる「嗅覚」の維持,Helthist.net, (2024.7.9閲覧)
- 長寿科学研究業績集「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」,公益財団法人長寿科学振興財団(2024.7.9閲覧)